コロナが存在する世界で、山を愛する仲間と考えたいこと

2020.11.02

個人的には5月の初め、梅雨の前に天候が安定する季節が一番好きです。新緑と残雪が一度に楽しめて、日の出も早くて、たっぷりと山の中を満喫できるからです。それに例年でもこの時期はまだ山小屋も混んでいませんので。

そんな自分にとってのベストシーズンを、今年は山から離れて過ごさざるをえませんでした。僕を含め、多くの山を愛する人たちはなんともいえない気持ちで日々を過ごしていたと思います。
コロナが広がり、多くの自治体からの自粛要請が出されましたが、山小屋をはじめとした関係者の方々の尽力もあって、夏には山へ入ることもできるようになりました。僕もまずは慣れ親しんだ山のいくつかに行ってみました。できるだけ互いの距離を取りながら、それが難しい状況ではマスクを必ずするなど、皆、それぞれに工夫をしながらの山登りですが、やはり楽しかったです。山は、いいです、やっぱり。

それでもかつてのような状況とは未だ程遠い中、いくつかみなさんと考えたいことがあるので、この場を借りてお話しさせてください。

まずは、いつも以上に安全に気を配る。いわゆる「安全マージン」をしっかりと確保しましょう、ということです。山登りは多くの人との関わりの中でなりたつものです。一度なにか事故を起こせば、周囲の人の手を借りなければなりません。ご存知の方もいると思いますが、今年の3月にカナダの国立公園が閉鎖されたという話がありました。これは遭難者がレスキューされた後にコロナの陽性者と判明。関わった救助関係者の全てが2週間の自宅待機を余儀なくされた結果、その地区全体の救助態勢が維持できなくなり、入山が禁止となってしまったというものです。今では、遭難救助にもいろいろな工夫や対策がとられていますが、登山者側の意識も十分に高めなければ、残念ながら同じようなことは、どこの山でも起こりうることではないでしょうか。

ですので、まずは事故を起こさない登山をする、というシンプルな思いを持つことが大切です。自分の力量を冷静に判断し、余裕のある計画を立てて登ることは、すでに多くの登山者が実践していると思います。ですが、コロナの状況がもう少し落ち着くまでは、よりゆったりとした登山がいいのかもしれませんね。

この期にぜひ勧めしたいのは、登山計画を立てるときに、しっかりと地図を読むことです。今はアプリで、自分のいる位置から目的地までの時間や標高差なども手軽にわかるようにはなっています。ですが、そうした「結果」だけではなく、地図をしっかりと読むことによって、どれくらいの距離でどのくらいの標高差か、つまり、どのくらい険しい道を歩くことになるのか、が分かるようになってきます。そうして地図を読めるようになってくると、「過程」が自分の中で見えるようになるので、より安全な計画を立てることにつながります。それに、慣れてくれば地図を眺めているだけで登山の様子も想像できてたのしいですよ。

もうひとつ、これはお勧めというか、僕自身が実施していることなのですが、いつもお世話になっている山小屋のみなさんへ少しでも助けになれば、と考えて山小屋が設けているサイトから山グッズを購入しています。
ご存知の通り、今シーズンは営業を断念したり期間や規模を縮小せざるを得ないなど、多くの山小屋は大変苦しい状況に置かれました。山小屋は日本の山文化を支えてきた大切な存在です。なんとかこの苦しい時期を乗り越えてもらいたい。そのお手伝いをしたいと考えている人が多くいると信じています。実際、山小屋をサポートするためのクラウドファンディングなどでも成果は出ているようです。

山バッジやタオルなど、登頂した際に買われる方も多いと思いますが、シャツなども、今までの山登りに寄った時とは違った視点で見ると、なかなかお洒落だなあ、なんて思いますし、そうして選ぶのも楽しいですよ。ショップサイトを新規で開かれている山小屋も多いようですので、ぜひ覗いてみてください。

今はそうして、普段の自分からすると手軽な山を選んで登る。空いた時間には用具の手入れをしたり、地図を眺めたり、山小屋のサイトを覗いてショッピングしたり、という「登山スタイル」になっています。深い山に登るときには必ず携帯していた熊除けのスプレーや、新しく入手したテントもなかなか出番が来そうにないですが、ゆっくり慌てず、で行こうと思います。

天候や風向きを見て、慌てずに冷静な行動をするのは登山者にとって一番大切な技術、ですから。

教えてくれたひと:内山 一之さん株式会社ヒマラヤ 経営企画室

山でも良く眠れるように、普段から寝る時は畳の上に寝袋。