ラケット5割、ガット5割。テニスの勝敗の鍵を握る、ストリンガーという仕事。

2020.03.16

テニスラケットのガットを張る職人をストリンガー、と言います。先日は日本で最も大きな大会である「楽天ジャパン・オープン」のストリンガー・ブースに入り、プレイヤーたちの要望に応えました。トップクラスの選手には専属のサポートチームが帯同し、その中にストリンガーも含まれるのですが、多くの選手は僕たちのようなストリンガーに依頼して、試合に臨みます。

ガットって、皆さんあまり意識しないかもしれませんが、テニスの勝敗を大きく作用するものなのです。個人的な感覚ですが、ラケットが半分、ガットが同じくらいの比率で勝ち負けに影響します。それだけに、選手たちもとても気を配ります。
よくテニスの試合の最中に、選手が指先でガットを整えているような光景を見ると思います。神経を集中させるためにガットをいじる、と言うのもあるかもしれませんが、ガットがずれてくると、ボールの反発に大きく影響が出てくるのでこまめに直すわけです。簡単に言うと、打面の中心部でボールを打ちつづけていけば、その部分のガットが広がってきます。広がるとそれまでよりも強い反発力が生じて、飛び過ぎるようになってしまうんです。

選手自身の指先で直すのにはどうしても限界がありますし、長時間のゲームになればガットそのものもヘタってきますので、選手によっては3本から6本くらいのラケットを持ってコートに向かいます。テレビなどでテニスの大会を見ていると、なんであんなにたくさんラケット持ってくるんだろう、って思われる方もいるかもしれませんが、そう言う理由なんです。

ガットの張り具合は、専門のマシンで張力を確認しながら行うのですが、選手によっては1ポンド刻みで4本、なんてオーダーをしてくる人もいます。自分の体調や戦況によってラケット、というかガットと使い分けるんですね。

実は、機械上では同じ数値。例えば50ポンドでガットを張っても、ストリンガーによって感覚がちがう、と言う選手の方も多くいます。ストリンガーそれぞれに、個性というか、技があるんですね。それだけに、自分が担当した選手が勝って、試合の後に「とてもよかったよ!ありがとう!」と言ってくれたりすると、とても嬉しく、やりがいを感じます。僕の話ではないのですが、先日の大会で、ベスト4で敗れた選手が担当したストリンガーのところにわざわざやってきて握手をして去っていくのを見た時にも、感動しました。

普段はもちろん店頭でもガット張りをするわけですが、お客さまのプレイスタイルや希望を理解してガットの種類、張り方を調整しています。直接聞くこともしますが、グリップを握ってもらうとその方のプレイスタイルが大体わかります。例えば、錦織選手がそうなんですが、厚めにグリップを握る方はコートの後方からバシバシ、ストロークを繰り出すタイプ。フェデラーのように薄めに握る人は、そつなくなんでもこなすタイプ。背の高い方に多いですね。それに加えて、どんな回転をかけたいのか、タッチ感をどうしたいのか、などを確認します。

僕自身は、よちよち歩きの頃からソフトテニスを始めて、高校から硬式へ転向しました。ソフトテニスは日本とアジアで競技人口が多いのですが、世界的にはあまりメジャーとは言えません。ソフトテニス時代は全国でも結構上位に入れたのですが、高校では全国大会へは行けたものの、ソフトの時ほどは活躍できませんでした。

とにかくテニスが大好きです!うまく説明できないんですが、ボールを打つだけでも楽しい!未経験の方にとってのバリアとしては、ルールがちょっと難しいとか、打ち合いが続かない、とかあるみたいですが、経験者とやってみるとその楽しさの一端がわかるはず、って信じています。それから、プロの試合も機会があればぜひ会場に足を運んでみてください。時速200kmを超えるサービスを見ると、興奮しますよ!ボールがどこに着地したかのか、最初は全く分からないくらいですから。

実は、岐阜には若くてとてもいいテニスプレーヤーが育っています。高校、大学となるうちに県外に出てしまうのが残念ですが。テニスコートも多くて、テニスができる環境としては、とてもいい土地柄だと思いますので、もっと盛り上げていきたいですね。まずは、ヒマラヤの仲間たちとテニスの大会を開催しよう、と企んでいるところです。期待してくださいね。

教えてくれたひと:安部 貴博さん株式会社ヒマラヤ 本館

気質は職人、人柄温厚、テニスから始まるコミュニケーションが大好き。